重症心不全
重症心不全とは
心不全の原因となる疾患として、虚血性心疾患、弁膜疾患、心筋炎、先天性心疾患などがありますが、中でも重要なのは心筋自体の原因不明な病変でおこる特発性心筋症(拡張型心筋症など)です。
心不全の治療はまず、水分制限や薬物療法があり、また、冠動脈バイパス術や弁置換術、弁形成術などの外科手術を行うことにより改善する疾患もあります。しかし心臓のポンプ機能の低下が極めて高度になり、内科的治療法や通常の外科手術では心機能は回復しないような状態を重症心不全といいます。重症心不全にたいする治療法として機械的循環補助法があります。IABPやPCPSは1週間程度の補助を目的とした機械的循環補助装置です。それ以上の長期にわたる循環補助が必要な場合は補助人工心臓が使用されます。
重症心不全の治療
補助人工心臓は自分の心臓を残したまま装着する人工心臓で、自分の心臓が回復した時は取り外す(離脱)することができます。
補助人工心臓には血液ポンプが体外に設置されている体外式補助人工心臓とポンプが植込まれている植込み型補助人工心臓があります。体外式補助人工心臓はもともと急性心不全の治療のために開発された人工心臓で、1ヵ月以内の使用を目的としていました。その後、慢性心不全に使用されるようになり数年間の駆動が可能なことも示されています。現在保険医療として使用できる体外式補助人工心臓には国立循環器病研究センターが開発したNipro VADなどがあります。後述する植込み型補助人工心臓が心臓移植の待機目的のみで使用できるのにたいして、体外式補助人工心臓にはそのような制約はありません。埼玉医科大学国際医療センターでは適応があればいつでも体外式補助人工心臓を装着できる体制にあります。体外式補助人工心臓は病院内で使用する機械なので退院することはできず、長期にわたる入院が必要になります。このため、体外式補助人工心臓装着中に心臓移植の適応申請を提出し、適応と判定された場合(症例によっては)植込み型補助人工心臓を装着することも可能です。
植込み型補助人工心臓を装着した患者は退院して自宅で心臓移植を待機することができます。介護人が必要である、車の運転はできないなどの制約はありますが、1ヵ月に1度程度の外来通院で補助人工心臓の管理することが可能です。植込み型補助人工心臓を装着したまま社会復帰した患者も少なくありません。現在、保険適応として使用できる植込み型補助人工心臓にはEVAHEART、DuraHeart、Heartmate Ⅱ、Jarvik 2000があります。埼玉医科大学国際医療センターではこれらすべての機種の使用経験があります。
心臓移植
臓移植をうけることにより重症心不全の状態ではなくなり、補助人工心臓を装着する必要もなくなります。殆ど運動制限もなく、自律した生活を送れるようになり社会復帰も可能となります。当院で心臓移植後の経過を診ている患者は殆ど社会復帰しています。
しかし、心臓移植にはいくつかの問題はあります。まず、ドナーの心臓はそのままでは拒絶されてしまうため、免疫抑制剤を飲み続けなければなりません。免疫抑制剤には副作用もあり、ウイルス、カビなどの病原体にたいする抵抗力が弱まり感染症にかかりやすくなることが懸念されます。このためハトなどのペットを飼育することができない、生ものを食べることができないなどの制約があります。
心臓移植を受けるためには施設内の適応検討委員会と日本循環器学会の審査をうけ、心臓移植の適応と判定される必要があります。心臓移植適応と判定された場合は日本臓器移植ネットワークに登録して心臓移植を待機します。
本邦の心臓移植の大きな問題点は心臓を提供するドナーの数が海外に比べて著しく少ないことです。心臓移植を受けるまでの待機期間は長く、補助人工心臓を装着して数年間待機しているのが現状です。
心臓移植は他の医療と異なり、臓器を提供するドナーがいなければ成り立ちません。このため、心臓移植を受けるための手続きは複雑になっていますが、心不全が進行している心筋症などの場合は早期に心臓移植の申請を検討した方が良いと考えます。心臓移植についてわからないことがあれば当科にご連絡していただければ幸いです。