大血管(胸部・腹部)
大動脈疾患とは?
大動脈疾患は世界的にも我が国は頻度の多い疾患である。特に、大動脈解離の頻度はイタリアと並んで世界のトップである。高血圧が多いこと、高齢者が多いこと、 CTが非常に多く,大動脈疾患の診断が容易であること等が原因として上げられている。大動脈疾患は大きく、大動脈瘤と大動脈解離に分けられる。
大動脈瘤
大動脈瘤とは?
動脈瘤とは、動脈が衰弱した部分、つまり血流から受ける力を保持できなくなった部分が結果として形成する風船様の拡張です。動脈瘤は体のどの部分の動脈にも発生する可能性があります。大動脈径は通常19mmから24mmの範囲にありますが、動脈瘤により通常サイズの数倍にも拡大する恐れがあります。治療を施さなかった場合、この大動脈瘤は破裂につながる恐れがあり、破裂のリスクは動脈瘤のサイズと血圧の高さに伴って増大します。破裂した場合致命的となる事が多く注意が必要です。
血管の構造
- 外膜(Adventitia)
- : 最外側の結合組織
- 中膜(Media)
- : 平滑筋と弾性繊維
- 内膜(Intima)
- : 内皮細胞と結合組織
大動脈の解剖
動脈瘤の解剖学的種類
- 真性:管の全層が保たれ、径が拡大している
- 仮性:血管壁が一部全層にわたり欠損し、内腔から血管外に出た血液が周囲組織を圧排して瘤を形成
- 解離性:内膜に亀裂が生じ、中膜にて壁の剥離が起きたもの
動脈瘤の解剖学的種類
-
紡錘状動脈瘤
Fusiform Aneurysms -
㐮状動脈瘤
Succular Aneurysms
原因
動脈硬化→最多
炎症:大動脈炎症候群、感染、Bechet病
外傷
先天性:Marfan症候群、Ehlers-Danlons症候群
大動脈瘤の病因について
動脈疾患、動脈創傷(外傷)や動脈壁組織の遺伝的欠損による長期にわたる大動脈の衰弱が大動脈瘤の原因となっている可能性があります。この衰弱部位に継続的にかかる血圧により大動脈のバルーン様の拡張(拡大と薄壁化)を引き起こしている可能性があります。動脈瘤を増長させるリスクファクターには、家系(家族歴)、喫煙、心臓疾患、高血圧や不健康な摂食があげられます。
大動脈瘤の症状について
大動脈瘤の患者の多くは自覚症状がありません。比較的発現する症状は、腹部、背中あるいは胸部における痛みです。患者の中には、腹部の中央または上部、あるいは背中の下部に中程度から強度の疼痛または圧痛のような痛みを訴える人もいます。また、腹部に、拍動する物体として動脈瘤を感知する患者もいます。定期検診により医師が大動脈瘤を発見することがあります。多くの場合は、CTスキャンや超音波のような医学検査で発見されます。
大動脈瘤の場所による分類
大動脈は大きく分けて横隔膜から上を「胸部大動脈」、横隔膜より下を「腹部大動脈」と呼んでいる。
真性大動脈瘤は、どこにできたかで
- ●大動脈基部拡張症(弁輪拡大症)
- ●下行大動脈瘤
- ●上行大動脈瘤
- ●胸腹部大動脈瘤
- ●弓部大動脈瘤
- ●腹部大動脈瘤
と呼ばれる。
真性大動脈瘤の手術適応
大動脈瘤のCT上の最大径が、胸部大動脈瘤では50mm、腹部大動脈瘤では40mm以上を手術適応としていることが多い。しかしながら、高齢者や合併症を抱えている症状で手術の危険性が高い場合には胸部大動脈瘤では60mm、腹部大動脈瘤では50mm以上としている。
「㐮状瘤」は「紡錘状瘤」より破裂しやすいため、“こぶ”が小さくても手術を考慮する。
最大瘤径からみた破裂危険度
最大瘤横径(cm) | 5年以内の破裂危険度(%) |
---|---|
>5.0 | 2 |
5.0〜5.9 | 25 |
6.0〜6.9 | 35 |
≧7.0 | 35 |
瘤径5cm以上を手術適応
大動脈瘤に対する治療法の選択
- 保存的治療:
- 腹部大動脈瘤で直径4-5cm、
胸部大動脈瘤で直径5-6cm
までは降圧剤を投与しつつ慎重に経過観察 - 外科手術:
- 人工血管置換術
血管内治療(EVAR:endovascular aneurysm repair):ステントグラフト内挿術
大動脈瘤の治療方法について
大動脈瘤の大きさや形態、患者の健康状態により、動脈瘤をどのように治療していくかが決定されます。動脈瘤が小さい場合には、医師は動脈瘤を観察するための定期検診を薦めるに留まる場合もあります。しかしながら、より大きな動脈瘤または急速に拡大しているなど破裂のリスクが高い動脈瘤等は治療を必要とする場合があります。医師が治療の必要性を感じた場合は、次の2つの選択的手法があります。外科手術または血管内治療術です。
大動脈瘤の治療の選択枝について
外科手術
外科手術は大動脈瘤の伝統的な選択枝です。これは、医師が患者の腹部または胸部を切開して疾患部位(動脈瘤)を人工血管で置換し、縫合糸で縫合することによって大動脈を修復する術式です。この手法では人工血管で疾患部位を置換する間は動脈血流を止める必要があります。外科手術は主として全身麻酔下で行われ、手術終了までに長時間を要します。患者は、通常一晩は集中治療室に入り、別途7日間以上入院します。体の治癒の速さにもよりますが、入院期間や回復期間は約1ヶ月を要することがあります。外科手術は大動脈瘤の治療の手段として立証されていますが、すべての患者がこの術式に適応可能なわけではありません。手法に関連したリスクは患者の全身的な健康状態に関係します。
2014年胸部大動脈手術数
大動脈解離 | 大動脈瘤 | 計 | |
---|---|---|---|
手術総数 | 35 | 10 | 45 |
総数緊急 | 19 | 16 | 35 |
死亡 | 7 | 0 | 7 |
2014年胸部大動脈術式数
大動脈解離 | 大動脈瘤 | 計 | |
---|---|---|---|
部品弓部置換(+α) | 35 | 10 | 45 |
全弓部置換(+α) | 19 | 16 | 35 |
胸部下行置換 | 7 | 0 | 7 |
胸腹部置換(基部置換) | 0 | 1 | 1 |
Bentall手術 | 6 | 9 | 15 |
David手術 | 1 | 2 | 3 |
その他 | 1 | 0 | 1 |
2014年胸部大動脈(解離)術式:65式
2014年胸部大動脈(解離)術式:65式
大動脈解離
大動脈解離とは?
大動脈解離(aortic dissection)とは「大動脈壁が中膜のレベルで二層に剥離し、動脈走行に沿ってある長さを 持ち二腔になった状態」で、大動脈壁内に血流もしくは血腫(血流のある型がほとんどであるが、血流のない=血栓化した型もある)が存在する動的な病態である。
大動脈解離の発生と進展①
大動脈の壁に亀裂が入り、急速に進展する。
大動脈解離の発生と進展②
急性大動脈解離の症状
急性大動脈解離の症状
解剖学的分類
経過時間による分類
- ●急性期(発症から2週間以内)
-
- 50年前の有効な治療法が無い時代の成績(死亡率)
- 発症直後2-3%
- 24時間以内25%
- 1週間以内50%
- 1週間以内75% …2週間以内の死亡率が非常に高い
- 1年以内90%
- →急性解離の診断書に直ちに治療が必要
急性A型解離はなぜ緊急手術が必要か?
大動脈解離が上行大動脈に存在
→致命的合併症の可能性あり
心タンポナーデ
急性心筋梗塞
大動脈弁閉鎖不全による心不全
急性大動脈解離の治療
急性A型(DeBakeyⅠまたはⅡ型)大動脈解離
緊急手術:上行大動脈置換術または上行弓部大動脈置換術(弓部3分技の再建)
保存療法:解離腔が血栓化(閉塞化)している場合。
急性B型(DeBakeyⅢ)大動脈解離
保存療法:多くの症状では降圧療法+安静
手術:臓器虚血(四肢虚血、腸管虚血や壊死、腎梗塞など)→血行再建術
大動脈破裂→大動脈置換術(人工血管)